世界的建築家が空間に込めた、想いを辿って
2023.08
新宿パークタワー 内装リニューアル ~前編~
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2023年2月に1階エントランスロビーのリニューアルが完成し、オフィスフロアの改修工事が着々と進んでいる新宿パークタワー。
今回は内装リニューアルのデザインを手掛けた、株式会社日建スペースデザインの塩田様と伊藤様にお話しを伺い、デザインに込められた思いや裏側などを前編・後編に分けてご紹介します!
巨匠・丹下健三氏が残した、希少なオフィスビル。
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新宿パークタワーは建築界の巨匠・丹下健三氏が手掛けた、数少ないオフィスビル。
同じく丹下氏が設計した東京都庁の第二本庁舎と相対するように摩天楼に佇む三角形のシルエットは、西新宿の象徴となっています。
そんな貴重なビルの内装デザインを手掛けることとなり、「学生時代、教科書に載っていた巨匠の作品に手を加えることは、どんなことだろう...」と設計者のお二人は考えたそう。
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メタリックな質感と照明を多用した近未来的な1階ロビーや、白とグレーを基調に機能性を追求したオフィスフロア。
どちらも1994年の竣工当時は斬新でしたが、今となってはやや古い印象を与えているか・・・。
しかしながら、館内を細かく見渡すと、エレベーターホールの折上げ天井、エレベーターのかごの天井にも「多角形」のモティーフが用いられているなど、とても魅力ある緻密なデザインが施されている建物でもあるのです。
マンハッタンの建築からインスパイア。
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お二人がまずおっしゃったのは、丹下氏のコンセプトの再解釈でした。
廊下の角を照らすライトのカーブの効いたデザイン。そこに、ニューヨークの摩天楼を想起させる「アール・デコ」の様式が取り入れられていました。アール・デコといえば、1930年代のマンハッタンが有名です。
丹下氏の足跡を辿るように、実際にマンハッタンのオフィス街を訪れ、幾つもの建造物を視察。そして、街を歩く中で、その光景が新宿パークタワーで出会う景色とよく似ていることにも気づいたのです。
さらに、歴史的建築物が多く残るマンハッタンには、建物を壊して作り直すという"再開発"ではなく、古いものを活かしながら時代に合わせていくという"再生"の思想が根付いていました。
設計者たちは、その思想を新宿パークタワーのリニューアルに取り入れたいと考え、丹下氏のこだわりを残しながらの再生設計へとコンセプトを昇華させていったのです。
竣工時の想いに、リスペクトを込めて。
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丹下氏のこだわりの意匠を活かしながら、国内外の企業にとって"働く場所"として魅力ある選ばれる空間へ。
そう考えて、90年代のクールな発想のオフィスデザインから、プレミアムホテルのようなしっとりと落ち着いたグレード感を得られる空間へと、リニューアルの方向性は鮮明になっていきました。
見せ場が豊富にある、このオフィスビルの本質を見極め、色や質感の方向性を整え直すなど、やり過ぎないことにこだわり、ポテンシャルを引き出す。
そんなデザインを行う日々は、まるで考古学者の発掘作業のようでもあったとお二人は語ります。
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そして、印象的だったのは、一通りデザインができ、丹下事務所に内装リニューアルの説明をした際のこと。
丹下氏の設計からアール・デコの様式や1930年代のマンハッタンのオフィス街の空気感を感じ取ったことを伝えたところ、事務所の方から「継承してもらえてありがたい」と声を掛けていただき、「解釈は間違ってなかった」と、巨匠に認められたような嬉しい気持ちになった、とお二人は語ってくれました。
前編では、塩田様・伊藤様から見た新宿パークタワーと、内装デザインへの考えについて紹介しました。
後編「機能的なオフィスから、ホテルの優雅を感じる空間に」では実際にリニューアルした箇所について深堀していきます!
※記事内容は掲載当時のものであり、現在は変更されている場合がございます。