機能的なオフィスから、ホテルの優雅を感じる空間に
2023.08
新宿パークタワー 内装リニューアル ~後編~
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前回記事
「世界的建築家が空間に込めた、想いを辿って」に引き続き、新宿パークタワーの内装リニューアルの裏側をご紹介します。
後編となる今回も、リニューアル箇所のこだわりなどを株式会社日建スペースデザインの塩田様・伊藤様に伺いました。
機能的なオフィス空間から、ホテルライクな内装へ。
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新宿パークタワーのオフィスフロアは、これまで白とグレーを基調にしたクールで機能的なデザインでした。
そんな90年代のトレンド感覚から、しっとりと落ち着いたラグジュアリーホテルのような空間へ。
変貌を遂げるためにお二人がこだわったのが、色味と質感です。
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エレベーターを降りて、まず目に入るのがダークグレーのカーペット。
そこには、アール・デコにインスパイアされた長方形のラインがアレンジされています。
そして、目を上げるとシルクのような質感のやわらかなベージュが壁面に。
続く廊下の壁面は、しっとりと質感があり上品な木目調。
すでに、どこかのラグジュアリーホテルに訪れたかのよう。
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さらにオフィスフロアを上質な空間へと導くカギとなったのは、廊下の照明です。
それまでは周囲をすべて明るく照らす白系であったものを、柔らかい黄色味に。
照明器具もダウンライトに切り替え、壁の近くを柔らかく照らすスタイルへ。
さらにこだわったのが、光の当て方です。
ダウンライトの光をそのまま床に落としてしまうと、廊下に丸い光のスポットが点々とついてしまうため、光の大きさを変更し一直線に繋がるように。
廊下全体に歩く人を導くような美しい光のラインが描かれたのです。
ここは、思い通りの演出になるよう、工事業者や照明器具メーカーの方と何度となく調整を重ねたとのこと。
超高層ビルならではの、サインの悩み。
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そんなお二人が、珍しく「難しかった」と語るのが、サインデザインの見直しです。
3つの棟からなる新宿パークタワーは、棟ごとにカラーが決められ、使い慣れている方だと色を目当てに目指すフロアにいくことも。
一方でビルに慣れていないと、どのエレベーターに乗ればよいかわからず迷ってしまう方もいました。
そこで、お二人はこの問題をサインデザインの見直しで解消しようと考えたのです。
当初は色分け自体を廃止してしまおうかと思ったそうですが、長く入居してくださるテナント様のことを考え、棟によるオリジナルカラーは、アイデンティティの一つとして継承することに。
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以前はかなりの面積を占めていたカラーは、エレベーターホールの壁の中にアクセントラインとして設え。
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また棟にそれぞれN、Sと振られたローマ字のサインは、落ち着いた内装と調和し、視認しやすいサイズやバランスへと整理しました。
これまでの足跡を小粋に残しながら"新宿パークタワーらしさ"を現代へと繋いだのです。
ビルの"顔"であるロビーに、おもてなしと高揚感。
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シルバーのメタリックな質感と、まるでビル街が立ち並んでいるかのように眩い印象のロビーは、この新宿パークタワーの象徴的な顔の一つ。
オフィスで働く人々が1日に何度も乗り降りする、1階のエントランスロビーです。
空間を贅沢に使った、そのロビーは現代のオフィスビルではあまり見ることのないほどの近未来的なデザイン。
このフロアで見直したのは、白く輝くクールな印象の照明。
それを落ち着いたアンバーなものに変えたことで、ややギラギラとした印象を放っていたシルバーの柱が、フロアの雰囲気と絶妙に調和。
近未来空間は、あたかもマンハッタンの地下鉄駅のようなこなれた都会のイメージへと変貌しました。
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さらにコンシェルジュカウンターをリニューアルし、"おもてなし"の機能を加えました。
そして、カウンターの腰壁に敷かれている反物には、作業服を裁断圧縮し布地へとリサイクル・再生されたものを採用。
社会インフラを支える東京ガスの思いを次世代へ繋ぎたい、との思いで設計者のお二人から提案されたもの。
多くの方をお迎えするロビーでさりげなく、この建物を見守っています。
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最後に、お二人は「今回の内装リニューアルは、今まで手掛けてきたものとは、大きく違う」と一言。
時代のトレンドや先端技術を盛り込み、世界観をがらりと変えるリニューアルではなく、"何を継承し、何を進化させるか"に悩み抜いて出した答え。
都市の遺産を守り、次の時代へと引き継いでいくような、こんなリニューアルの新しい形が、ここ新宿パークタワーで花開いたと言うこともつながるのではないでしょうか。
アイデンティティを残しながら、今の働き方や価値観にフィットした内装に再生した新宿パークタワービル。
訪れた際には是非、細やかなディティールにまで目を止めてみてください。
※記事内容は掲載当時のものであり、現在は変更されている場合がございます。